2014年11月5日水曜日

立体的に見るということ (1)

[「疲労困憊の3D映画」シリーズの続きです]


静止した2Dイメージから奥行きを得る

3D映画でなくとも、立体感、奥行きを感じることはできます。いや、むしろ大部分の3D情報は視差を用いていないのです。

(1)透視図法
いわゆる「2次元での奥行き表現」と言ったときに、西洋絵画で発達した、この「遠近法」「透視図法」は基礎になります。一般的には1410年代から20年代に、フィリッポ・ブルネレスキ(1377 - 1446)ロレンツォ・ギベルティ(c.1381 - 1455)が、「再発見」したとされています。ブルネレスキは古代ローマの建築の観察から、ギベルティは、10世紀のアラビアの学者、イブン・アル・ハイサム(965 - 1040)の著書「光学の書」を研究したのがきっかけです。古代ギリシア、あるいはローマに「遠近法」が法則として認知されていたかは定かではありませんが、ポンペイの壁画には、消失点をもつ構図のものも含まれています。それらの法則を「復活させた」のがこの二人だと言われています。「ブルネレスキの実験」と呼ばれる、透視図法描画の実験があります。彼はフィレンツェのサン・ジョバンニ礼拝堂の風景を透視図法で描き、その絵の裏側から消失点を通して覗いた風景と、鏡に反射させた絵が重なるかを試しました。これからもわかるように、「透視図法」は片目でみても遠近感が発生するシステムです。



この透視図法による描画法はイタリア国内では10年から20年でほぼ確立されたようです。たとえば14世紀の終わりから15世紀のはじめにフィレンツェで作品をのこしたロレンツォ・ディ・ニッコーロの「聖フィナの伝説(1402)」では、遠近法の基本的なシステムも導入されておらず、現在の我々の眼から見るとかなり破綻した造形が描かれています。ところが、同じフィレンツェのマサッチオ(1401 - 1428)の「聖三位一体(1425)」になると、かなり正確な透視図法が導入され、いわゆる「トロンプ・ルイユ(trompe l'oeil)」の効果をみることができます。

ロレンツォ・ディ・ニッコーロ 聖フィナの伝説(1402)[部分]


マサッチオ 聖三位一体(1425)

マサッチオ 聖三位一体 透視図法解釈
 
この間はわずか23年であり、驚くべきスピードでこの技法が吸収されていったのがわかります。1450年代には、多少の不正確さはあれ、多くのイタリアの画家が透視図法を導入しています。なかには、ロレンツォ・モナコのように当初は遠近感など微塵もなかった作品だったのが、20年ほどで極端な透視図法を取り入れようとして、M. C. エッシャーのようなシュールなものになっている場合もあります。

ロレンツォ・モナコ 降誕(1390)

ロレンツォ・モナコ 三王礼拝(1422)[部分]
このような透視図法にみられる、消失点に向かって伸びる直線を利用した構図は、たとえば「第三の男(The Third Man, 1949)」の最後のシーンなどに見られます。

第三の男(1949) キャロル・リード監督

ミステリー・ストリート(1950) ジョン・スタージェス監督

(2)繰り返しパターン
透視図法とともに現れてきたのが、床や天井などのデザインやパターンを用いて、遠近を表現する方法です。同じ模様や形状が繰り返されるため、そのパターンが遠くに行くほど小さくなることで奥行きを表現します。アーチ、柱、天井や壁のパネルなどがよい例です。遠近表現の正確さを追及し始めた15世紀前半では、透視図法と併用されて多く登場します。わざわざ、繰り返しのパターンをひねり出して使用している例も見られます。また、時代は下って、ベネチアやロンドンの風景を多く描いたイタリア・バロック期の画家、カナレット(1697 - 1768)は繰り返すアーチと柱を多用しながら、空間を表現しました。

カナレット 修復中のウェストミンスター橋(1749)

上の「第三の男」でも並木のパターンが遠近感を強調しています。映画「アパートの鍵貸します(1960)」に登場するオフィスは、その広大さ、従業員の数の多さ、そしてジャック・レモン扮するバクスターが一介のしがない従業員でしかない事実を、数限りなく並ぶデスクと、天井の照明のパターンで表現しています。特にこの天井照明は、実際には大きすぎるし多すぎる。当時の実際のオフィスの写真と比較してみると一目瞭然です。これは、わざとこのようなデザインにして、奥行きを強調したのでしょう。

アパートの鍵貸します(1960) ビリー・ワイルダー監督


1950年代のアメリカのオフィス (via. WSJ)

(3)相対的なサイズ
これは我々があらかじめサイズを知っているものが、画面上でどのようなサイズ関係になっているかで遠近感を把握するということです。カナレットの「柱廊の遠近法(1765)」では、柱の大きさ、ひいては建築そのものの大きさが、随所に配置された人間のサイズで把握できます。

カナレット 柱廊の遠近法(1765)
風景の中に人物を配置して、その広大さを想像させるという手法は、ドイツのロマン派絵画によく見られるようです。広大な風景だけ描いてしまうと、それがどれだけ広大か判別しにくいのですが、そこに人間を配置することで、「人間」と「自然」の相対的なサイズ関係を表現するのです。有名なカスパー・ダーヴィッド・フリードリヒの「雲海を見下ろす散策者(1818)」のなかでは、こちらに背を向けた「散策者」が、この絵画に描かれている風景の広大さの鍵になります。

カスパー・ダーヴィッド・フリードリヒ 雲海を見下ろす散策者(1818)

アウグスト・マティウス・ハーゲンの「海岸(1835)」では、手前のボートと、その向こうの人間のサイズの関係だけで(他に距離をあらわす鍵になるものが描かれていない)奥行きを表現しています。

アウグスト・マティウス・ハーゲン 海岸(1835)

これはF. W. ムルナウの「サンライズ(Sunrise, 1927)」の1シーンですが、手前のランプの大きさが人間に比べて異様に大きく映っていることで、非常に近距離にあることがわかります。

サンライズ(1927) F. W. ムルナウ監督


市民ケーン(Citizen Kane, 1941)」の1シーンですが、やはり、手前のビンとスプーンの大きさから、奥からやってくるオーソン・ウェルズの距離が把握できます。

市民ケーン(1941) オーソン・ウェルズ監督

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