1929年にヨーロッパの芸術映画サークルでちょっとした話題になったアマチュア作品がある。”The Gaiety of Nations”という題名だが、ここでは「列国の愉楽」と呼ぼう。


この作品は第一次世界大戦を挟んだ欧米の歴史を表現した11分程度のものである。A・H・アーン(A. H. Ahern)とジョージ・H・シューエル(George H. Sewell)の二人によって作られた作品なのだが、冒頭の字幕にあるように「15フィート×11フィートの部屋の中ですべて撮影(一つのショットを除いては)」されたという。8畳ちょっとのサイズの部屋だ。


厚紙を切り抜いて作った街並み、新聞や株取引の黒板といった小道具を用いて、巧みにストーリーを展開していく。シルエットやキアロスクーロに比重を置いた照明、極端なクローズアップ、手持ちカメラ、数フレームまでそぎ落とした編集など、サイレント末期当時の映画テクニックをふんだんに盛り込んでいる。


特に戦争の場面は「厚紙で作った」ことが誰の眼にも明らかだが、なにか禍々しい衝撃を残していく。戦車が現れるシーンなどは構図として隙無く嵌っていて、「物語り」のクリシェをなぞることで逆に我々の想像力を刺激している。

ジョージ・H・シューエルはアマチュア映画のパイオニアとして知られているようだ。シューエルとアーンが1924年に製作した「Smoke」という短篇(35mm)は、どんでん返しのエンディングがその後のアマチュア映画に影響を与えたといわれている。


【参考】
"Small-Gauge Storytelling: Discovering the Amateur Fiction Film, Ryan Shand"、Ian Craven (2013)

Close Up、1929年 10月号