以下は「映写技師の問題」と題された1926年の論文からの抜粋(翻訳:筆者)です。著者はルイス・M・タウンゼント、イーストマン劇場の映写部長です。当時、イーストマン劇場と言えば、アメリカ国内でもトップと呼ばれたクオリティの高い映画館でした。その映画館の映写技師のグループを束ねていた人物による、その当時の問題意識です。

今の私の最大の問題は、1000フィートの週替りプログラム、2000フィートのコメディ、8000フィートの長編映画を2時間のプログラムに詰め込まないといけないと言うことだ。この2時間には、この他に8分か10分の序曲の演奏と、5分か10分くらい別のショーがある。これを映写速度を上げずにやらないといけない。イーストマン劇場では、これだけのプログラムを組まないと十分に楽しいものにならないと考えている。では、どうするか?標準スピードの1分当たり80フィート(約21fps)ではなく、1分当たり90から100フィート(24fpsから約27fps)で映写する。全部で120分しかない。しかも10分は演奏、10分はショーにとられ、映画には100分しかない。これだと9000フィートしか見せられない。そこで、コメディを1200フィートくらいにまで減らし、長編映画からは1000フィート分を減らす。これらはおおよその目安だが、プログラム全体では9000フィートを超えるわけにはいかないのだ。これをどうするかと言えば、--切るのである。これは易しい仕事ではない。私たちはこうしている。まず、支配人、音楽監督、そして私で最初に試写をする。その後、何を削れるか議論をする。この段階で、私は長さにしてどれくらい削れるか見当をつける。そして映写スピードと長さが決められる。そこでこの情報を記したメモを作って保存しておく。上映の段階になってプリントを受け取ると、もう一度上映して必要な編集(カット)をする。これは大体6時間から7時間かかる。製作者や配給(film exchange)は映画を切られるのを嫌がる。だが、彼らが長編映画を7000フィート以上で出してきたり、1000フィートにしたほうが面白いコメディを2000フィートで出してきたりする以上、こちらは切り続ける。もちろん、私たちは、映画のある部分をごっそり1000フィートも2000フィートも切ってしまうわけではない。リールごとに見ていって、ストーリーに直接関係無いような事柄や不必要なディテールや尺あわせをカットするのだが、これが結構たくさんあるのだ。

この論文の後に、映画技術者協会のトップたちとタウンゼント氏による議論があります。これはほぼ全部掲載します。

議論

ヒル氏(陸軍)・・・イーストマン劇場が、他でよくやられているように映写速度を極端に速くするようなことをせず、編集をして短くするという大変な思いをしているのだと聞いて嬉しく思う。2時間の映画を無理やり速くして1時間半で見せるような映画館は、観客をだましていると思う。13オンスのバターを1ポンドだと言って売っている八百屋のようなものだ。

クック会長:私は、13オンスを1ポンドだと言って売っている八百屋だとは思わない。客は1ポンド受け取っているが、消化できるよりも速く喉に押し込まれているんだと思う。

パーマー氏(映画製作会社『フェーマス・プレヤーズ・ラスキー』):タウンゼントさんにそのカットについて聞きたいのだが・・・、自分たちでやる代わりに配給にカットしてほしいと頼んだことはないんですか?業界で製作側にいる人間としては、映写技師や映写部長なんかよりも配給のほうがそういうことはまともにできる気がするんだが・・・

タウンゼント氏:私たちは一度配給にカットを頼んだことがあります。あまりに酷かったのでそれ以降はもう頼まないことにしました。配給はただ映画の一部分を500フィートまるごとカットして、ストーリーが一部分なくなってしまったんです。見た人はみんな気づきました。我々は判断しながらカットします。ある映画から500フィート分をカットしたいのなら、私は非常に気を使いながら、リールごとに少しずつ切り出します。私は試写の時に一度見て、その後もう一度リールごとに見ます。記憶に頼って、長編映画を作業したりしません。ストーリーを一部分まるごとカットしたり、ストーリーにとって重要な出来事をカットしたりしないようにしています。脇の演技とか明らかに尺を埋めようとしたところとかを削除するんです

デニソン氏(映画製作会社『フェーマス・プレヤーズ・ラスキー』映写担当):私は劇場側で映画をカットする権利などないと思う。映画はスタジオで適切に編集され、完璧な形なのだ。映写技師に映画を再度カットする資格などない。配給でさえ、検閲にかかったところをカットする以外には何もしない。劇場で映画をカットしないように過去にも何度も言ってきた。もし映画が長すぎたり、尺あわせをしているようだったら、製作側に話をもってくるべきだ。劇場で訳も判らない切り方をされては、映画のストーリーの価値がなくなってしまう。

リチャードソン氏(映画雑誌『モーション・ピクチャー・ワールド』編集):私は、切らないでそのままのほうがいい映画など見たことがない。尺あわせみたいなことをするせいで、時事ものや長編やコメディを限られた時間で上映しないといけない多くの劇場が困っている。上映時間は支配人が詰め込みたいプログラムにはとても入りきらない。私は言い続けてきたし、またここでも言うが、有能な映写技師の最も重要な仕事の一つが、映画をみて、もうどの映画にもくっついている要らない部分を切り落として、映写スピード上げずに時間内に上映することだと思っている。



出典 Lewis M. Townsend, "Problems of a Projectnist", Transactions of the Society of Motion Picture Engineers, 10, p.7 (1926)