2015年7月2日木曜日

動くカメラ (8)

『戦艦くろがね号』で使用された船上撮影用リグ
『戦艦くろがね号(Old Ironsides, 1926)』は、19世紀の地中海で海賊船と戦う帆船を舞台とした歴史活劇です。この映画のアクションシーン撮影の大部分は実際の船の上で行われました。撮影監督のアルフレッド・ギルクスは、ここで特別な装置を開発します。油圧で調整されたリグで、この上に三脚で固定されたカメラを設置しています。

ギルクスは、船の甲板の上に普通に三脚を立ててカメラを置くと、船の揺れが表現できないと考えました。

『戦艦くろがね号』の大部分は航行中の船上で、しかも実際の嵐のなかで撮影されるため、船の実際の揺れを自然にスクリーン上で表現することが望まれていた。
デッキ上に三脚を「打ち付け」たり、そうでなくても船に固定したりしてしまうと、これは不可能だ。そのようなセットアップでは、カメラは船の一部となってしまう。カメラの動きは船の動きと同期してしまう[1]。

それまでも揺れている船で撮影するためのカメラ用アタッチメントはあったようですが、これはバネでカメラを支持するタイプのもので、慣性がつきすぎてしまうという問題がありました。そこで、甲板の外にぶら下げるリグを作り、その吊りを油圧で調節していたのです。こうすれば、リグは船とは独立しますが、慣性による過度な揺れも油圧の調整によって抑えることができます。

この映画では、パンクロマチック・フィルムが使用されています。1920年代前半まで使用されていたオルトクロマチック・フィルムでは、空は白く映ってしまうため、空と海の境の水平線がはっきりしないのですが、パンクロマチックではそれがはっきりと出るようになります。つまり、『戦艦くろがね号』では水平線が船の背景に映し出されるのです。ギルクスは、固定された前景(甲板上)に対して、水平線が乱暴に動くだけでは「船の揺れ」を表現できないだろう、と考えて、油圧リグを考案したのでした。

『つばさ(Wings, 1927)』でも、パンクロマチック・フィルムが使われています。

まず、空中戦のシーン -パンクロマチック・フィルムの使用とマグナ・スコープ(注:大型スクリーン)の使用でスリルが増しているー は、カメラ好きにはたまらない映像クオリティだ [2]。

パンクロマチック・フィルムのおかげで、スピード感のある空中戦が立体的になっています。『つばさ』では、飛行機上に固定されたカメラからの映像がありますが、これだと『戦艦くろがね号』で回避したこと -カメラの動きと飛行機の動きが同期してしまうー が起きていしまいます。けれども、むしろ雲がはっきり映っていることで、背景の動きが強調されて空中戦の臨場感が伝わってきます。やはり遠景で撮影した空中戦、雲の合間を縫って飛び交う飛行機の映像が、もっともエキサイティングでしょうか。

 

[1] ""Sea-Going" Cameras for "Old Ironsides"", American Cinematographer, 6, p.7 (1926)
[2] "Wings", Amateaur Movie Makers, p.306, May (1928)


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