「ペリー・メイスン:奇妙な花嫁(1935)」のオープニング

久しぶりにこのサイトを再開しようと思います。

ペリー・メイスン:奇妙な花嫁(THE CASE OF THE CURIOUS BRIDE, 1935)」は、ワーナー・ブラザースが1934年から1937年にかけて製作した「ペリー・メイスン」シリーズの2作目です。ウォーレン・ウィリアムが、かの有名な弁護士を演じ、秘書デラをクレア・ドッド、スパッジーをアレン・ジェンキンズが演じています(1作目の「吠える犬」では、アレン・ジェンキンズは刑事だったのですが)。舞台はサンフランシスコ、ペリー・メイスンは中国に遠征にいく途中という設定です(そして、事件に巻き込まれ、結局行けません)。この映画のオープニングを見ていて、あれっと思ったのです。


これはサンフランシスコのフェリー・ビルディングを俯瞰で撮っています。まず、フェリー・ビルディングの前にひしめくケーブルカー。マーケット・ストリートの突き当たりなんですが、現在はこんな感じではないはず。そして、少しカメラがパンすると、オークランド・ベイ・ブリッジが見えるのですが、どう見ても建設中のようなのです。

「ペリー・メイスン:奇妙な花嫁(1935)」オープニング。 右奥に見えるのが建設中のオークランド・ベイ・ブリッジ。

このフェリー・ビルディングは、A.・ペイジ・ブラウンという建築家が「ボザール様式」というスタイルで設計し、1898年にオープンした建物です。1930年代にゴールデン・ゲート・ブリッジとオークランド・ベイ・ブリッジが完成するまで、サンフランシスコ湾を横断するにはフェリーが唯一の手段でした。フェリー・ビルディングは、まさにそのフェリー運航の窓口であり、当時世界でも最大級の運輸量を誇っていました。一方で、坂の多いサンフランシスコではケーブルカーは欠かせない乗り物で、必然的にケーブルカーの路線はフェリー・ビルディングに集中することになりました。乗客の乗降を効率的に行うために、集中した路線はフェリー・ビルディングの前で周回することになったのです。この「ループ・トラック」は20世紀前半のサンフランシスコの成長を象徴する光景だったのです。 


ループ・トラック(1920年代?)

一方で、運輸をフェリーに頼っていてはまずいのでは、とも思われていました。大陸横断鉄道は、対岸のオークランドに着いてしまい、輸送の拠点を対岸に持っていかれて経済的に取り残されてしまうのではないかという危惧が常にあったのです。そこで、橋の建設は幾度も議論され、1930年代についにオークランド・ベイ・ブリッジ(1936年完成)、ゴールデン・ゲート・ブリッジ(1937年完成)とサンフランシスコの動脈となる2つの橋が完成しました。これによって、フェリーの利用はがた落ちし、フェリー・ビルディングも寂れていきます。1950年代には、かつて「ループ・トラック」があった場所にハイウェイが建設されます(そして1989年の地震を期に取り壊されます)。

ですから、この映画が撮影された1935年には、フェリー・ビルディングの利用は最盛期だったのと同時に、その向こうに建設中のオークランド・ベイ・ブリッジが見えたのです。この写真はまさしく同じころに撮影された建設中のオークランド・ベイ・ブリッジ、オークランド側から撮影されています。

建設中のオークランド・ベイ・ブリッジ(Wikipedia)



これは、ちょっと前に有名になったサンフランシスコ大地震(1906)直前のフィルム。マーケット・ストリートを直進していくケーブルカーから1906年4月15日に撮影されたものです。ずっと先にフェリー・ビルディングの時計塔が見えますね。これは本当にすばらしいフィルムです。まるで、1906年のサンフランシスコにタイム・トリップしたような気分になります。路面電車上の定点にカメラを置いてじっと撮るだけで、こんなにも様々な風景や人に触れることができるなんてすごいことです。いろんなことを想像してしまいます。あのエプロンをかけた若い男は、何を急いでいたんだろう?子供たちは、ああやって自動車の後ろにぶら下がって移動していたんだな。馬車がこんなにも走っていたら、馬の「落し物」でとても臭っていたし、歩くと汚れたんだろうな。新聞を抱えた売り子の少年は、どんな大人になったんだろう?第一次大戦に行ったのだろうか?そして、マーケット・ストリートの終点、フェリー・ビルディング(「1896年建立」の文字が見えますね)で、ターンテーブルで方向を変えるところで終わります。そうです。このときにはまだ「ループ・トラック」ではなかったのです。

気づいた方も多いかもしれませんが、冒頭のオープニングの画像で「Errol Flynn」とありますね。そうです。ロビン・フッドの映画で有名になったエロール・フリンです。オーストラリア生まれの彼は、これが、ハリウッド映画デビューです。

「ペリー・メイスン:奇妙な花嫁(1935)」のエロール・フリン