ウィリアム・ウェルマン監督「また会う日まで」
左がセオドア・スパールクール

「心の喜劇」の話に戻って、撮影監督のセオドア・スパールクール(1894 - 1946)は、ハノーバー生まれ。映写機のセールスマンをしていたところへ、ニュース映画のカメラマンとしての仕事で雇われ、第一次大戦中はロシアから中東まで題材をもとめて飛び回っていました。1916年から、エルンスト・ルビッチの(ほぼ)専属カメラマンとなり、ルビッチがアメリカにわたるまで彼の作品を担当します。1928年のG・W・パブーストの「邪道(Abwege)」を最後にドイツを離れ、イギリス、そしてフランスで仕事をします。ジャン・ルノワールの「坊やに下剤を(On purge bébé, 1931)」「牝犬(La Chienne, 1932)」などでも仕事をしています。その後渡米、1940年代には「ガラスの鍵(The Glass Key, 1942)」などフィルム・ノワールのさきがけになる作品を担当しています。

ガラスの鍵
(セオドア・スパールクール撮影)

「心の喜劇」の主演、リル・ダゴーヴァー(1887 - 1980)はドイツサイレント期を代表する女優です。「カリガリ博士」「死神の谷」「ドクトル・マブゼ」などに出演しています。一方、アレクサンダー・ムルスキ(1869 - 1943)は、ロシア出身の俳優。ロシア革命のときに国を脱出、1917年にベルリンに現れます。1920年代は主に判事や検事などの役をつとめました。彼はユダヤ人であり、ナチスの台頭とともにフランスに逃げます。そこでロシア移民たちの劇場に出演していましたが、ドイツの侵攻とともに地下組織にもぐりこみ、その後の消息は定かではありません。

この映画は、舞台美術に長けた人たちが関わった作品です。話題にならないのですが、プリントは存在しているのではないでしょうか。これだけの人物たちが関わった作品なので非常に興味があります。