今回は、ストリーミングサービスとAIについて、いくつか気になった映画の予告編、そして映画雑誌「南海」の新刊について記録します。
ストリーミングサービスと
人工知能
世界最大のTVメーカーになりつつあるTCL科技集団が、昨年夏より、新しいストリーミングサービス《TCLtv+》を開始しましたしました。TCLtv+は、TCLのTVを購入すると、そこにデフォルトでインストールされている「広告付き無料ストリーミングサービス」を目的としていて、最近海外では主流になりつつある広告が挿入された動画番組サービスのひとつです。そして今月、オリジナルのコンテンツを制作する《TCLtv+ Studio》を始動させると発表しました。ところが、そのスタジオの新シリーズ「Next Stop Paris」のプロモ映像として公開されたものが「AI生成動画の悪夢」として批判を浴びています。
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Next Stop Paris Trailer |
この「Next Stop Paris」は、新郎に結婚式で逃げられてしまった女性が一人でパリを訪れ、そこで出会った見知らぬ男性とこの街を探索するというストーリーらしいです。
昨年TCLがTCL TV+を立ち上げた時、彼らの「IDEOテクノロジー」が他社との差異化につながると語っていた。IDEOとは「エンターテイメントを個人に合わせて消費する方法」とうたわれていて、オンスクリーンのチャットボットやキャラ、さらにはユーザーに合わせた「おすすめコンテンツ」の提供を意味するもののようだ。プレスリリースには「TCLはAmagi、XUMO、Wurl、OTTera、Future Todayといったパートナーとコンテンツの立ち上げにおいて協業し、今後も他のキープレイヤーを増やしていく予定だ」と述べられている。
Jason Koebler
このパートナーというのが、かなりの曲者です。主にウェブ媒体を中心とした広告エージェンシーなのですが、これらの企業を率いるのが、現在テクノロジー産業のVCや経営者に多い《加速主義の信奉者》なのです。
我々は、個人として、自らの感情を表すことが困難な時がある。自分がどう感じているかわからず、言葉にすることができない、そういったことが多いのだ。だが、優れた著作家、アーティスト、クリエイターたちは、言葉や、歌や、イメージを使って感情を表現する方法を編み出し、それらをインターネット上で長年にわたりシェアしてきた。MLLMは、こういったエモーショナルな財産(emoitonal assets)をもとにトレーニングをして、個人一人一人よりもより明晰に人間の感情を理解し表現できるのだ。
Ron Gutman
CEO of Wurl
「MLLMs ...can understand and describe human emotion 」という表現が、すべてを表しています。「MLLMが理解する」という表現をおかしいと思わないというのは、とりもなおさず「理解する」という動詞が指示する精神活動についてあやふやな定義しかできていない、ということを意味します。あるいは、このような論を主張する人たちにとっては、「理解する」という活動はあくまでパターン認識的アルゴリズムによる生成可能性であって、様々なレベルにおける概念の展開可能性までは指していない、ということなのかもしれません。
既存のストリーミング・サービスでもAIの使用は進んでいます。今週、話題になったのは、Netflixのオリジナル・ドキュメンタリー・シリーズ『ジェニファーのしたこと(What Jennifer Did, 2024)』で、事件のカギを握るジェニファーのプライベート写真がAIで生成されたものではないか、という疑いが出ています。
こういう事態は予測されてはいたと思います。すなわち「AIによって質の悪いものが氾濫する」という事態です。ただし、この「質の良し悪し」も定義上の相対性の問題に帰するのであれば、もはや批評的な視野というのは邪魔なものにしかなりません。
404Media, "The Dystopian Future of TV Is AI-Generated 'FAST' Garbage"", Jason Koebler, April 16, 2024気になる映画の予告編
いくつか
"Civil War (2024)" dir. Alex Garland
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Civil War Trailer |
アメリカ人の半数以上が数年以内に市民戦争が起きると考えているという研究結果が2022年に発表されました。40%は、アメリカには強いリーダーが必要で、白人が移民によって置き換えられようとしていると考えていて、 1.2%は政治問題のためなら人を撃ってもよいと思っているとさえ思っています。この1.2%とは、280万人に相当します。
その世相をとらえた映画なのでしょうか。そして、絵空事ではないかもしれない。
"Time of the Heathen (1961)" dir. Peter Kass
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Time of the Heathen |
ニューヨークの演劇界で活躍し、多くの俳優に演技を指導したPeter Kassの唯一の長編実験映画。ヒロシマ・ナガサキ後の核の時代と1960年代の人種政治を背景とした作品だと紹介されています。UCLAが4K修復をして、この5月にニューヨークでプレミア上映されるとのこと。
Eternal You (2024) dir.Hans Block and Moritz Riesewieck
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Eternal You |
このドキュメンタリーのテーマは「亡くなってしまった大事な人にもう一度会えると言われたら、あなたはどうしますか?」というもの。もうすでに数年前からオープンソースのAIを使って亡くなったガールフレンドとチャットしたりしている人たちはいたのですが、それが今ビジネスとして立ち上がろうとしています。これはそのトレンドを追跡したドキュメンタリー。
かつてGPT-3を使った「Project December」というプロジェクトがありました。これは亡くなった人が生前に書いたテキストをAIに学習させて、故人と会話するというものでした。私が戦慄したのは、このプロジェクトで故人と会話できるのは払ったお金分だけというところです。これから登場する「亡くなった人とのコミュニケーション」サービスもすべてそうでしょう。亡くなった人を「よみがえ」らせて、お金の続くあいだ、会話する。グロテスクなような、しかし本人にとっては切実な、世界の復元。
これは、まだ故人と限定している話ですが、これは簡単に生きている生身の人間にだって応用できます。嫌がらせ、詐欺、犯罪・・・アイデンティティのコモディティ化は悪いことしか起きません。そういったことを規制するのか、しないのか。できるのか、できないのか。
映画雑誌「南海」第5号
発売
映画雑誌「南海」 Vol. 5 |
お世話になっているデザイナーの桜井雄一郎氏が主宰する雑誌「南海」の第5号が発売になりました。
今号の特集は「ジョナサン・デミの音楽、 デイヴィッド・バーンの映像 1980–1989」。大森さわこ、古賀弘幸、松永良平、遠藤倫子、J. Hoberman(翻訳=早川由真)の各氏による論考、さらに渡部幻+佐野亨両氏の50ページ近くにわたる対談、そしてジョナサン・デミへのインタビューと盛りだくさんな内容です。
ジョナサン・デミ、デヴィッド・バーンを中心とした人物相関図(別紙になっています)が興味深いです。
Instagramで取扱店の情報などが常にアップデートされていますので、ご覧になってください。
南海付録 人物相関図 |
Listening ...
ハンガリーの現代作曲家、ジェルジュ・クルターグ、マルタ・クルターグ夫妻による、バッハのカンタータ「神の時こそいと良き時」BWV106のソナティーナ。彼ら自身によるピアノ連弾編曲。こんな美しい曲の、こんな美しい演奏があるんですよ、この世に。
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J. S. Bach, Sonatina, BWV 106: Gyorgy and Marta Kurtag |
マルタ・クルターグは2019年に亡くなりました。
こちらが元のカンタータの編成での演奏。カール・リヒター指揮、ミュンヘン・バッハ管弦楽団。この演奏がいいのか議論はありますが(テンポが遅いという批判もあります)、それでもこれがいいと思います。
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J. S. Bach, Sonatina, BWV 106: Münchener Bach-Orchester · Karl Richter |
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