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今回は、フロリダのディズニー・ワールドの労働環境について、AIによって変わる論文の文体について、そして「神は歌う」について、です。
ホームレスは違法
フロリダのディズニー・ワールド・リゾートはフロリダ州オーランドにあるテーマパークで、「面積は約110km²であり、東京の山手線の内側2つ分が丸ごと入ってしまうほどの巨大なリゾート群(ウィキペディア)」です。
そこで働く人々(キャスト・メンバー)の労働環境は、年を追うごとに悪化しています。キャストメンバーの4分の3は生活費を稼ぐことができず、10%はホームレスだと言われています。ホームレスのキャスト・メンバーに加え、生活するために複数の仕事を掛け持ちするキャスト・メンバーの多くは車の中で寝ています。職場でのケガも多く、パレードやショーで着る衣装・着ぐるみが原因でケガや体の不調を訴える人が大多数に上ります。
フロリダ州は、この3月に公共の場で寝ることを禁止しました。すなわち《ホームレス》を違法としたのです。さらに、ディズニー・ワールド・リゾートに隣接したキシミー郡では、自動車のなかで寝ることも違法としました。
とはいえ、この地域には少なくとも数千人の人がホームレス状態でいるわけで、彼ら彼女らの存在を違法にするだけでは、何も解決しません。ディズニー・ワールドで働く、少なくない数の人が、この法律に抵触しそうです。ディズニー社はこの問題に気づいていながらも、なんら対策を講じていません。キシミー郡は、住民に対し、自宅の車庫を仮住まいのアパートに改造する場合には補助金を出すと言っているようです。改造したアパートにホームレスを住まわせるというアイディアのようです。ところが、「そんなものを作ったら不動産の価値が下がるんじゃないか」という意見もあり、どうも雲行きは怪しいです。
私は以前、「私はホームレスじゃない、ハウスレスだ」という『ノマドランド(Nomadland, 2020)』に異様な印象を抱き、私の感じた異様さについて論じてみました。そういえば『ノマドランド』の配給もディズニーでしたね。
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Kissimmee, Florida (Google Earth) |
ChatGPTはSignificantがお好き
科学の分野で、Generative AI を使って論文を書くことの是非が議論になっています。たとえば、多くのジャーナル(ex. Nature)や出版社(ex. Elsevier)ではChatGPTなどを論文の著者としてリストすることを禁じています。イントロダクションの冒頭が「Certainly, here is a possible introduction for your topic:」というChatGPT特有の発語から始まる論文が、“Surfaces and Interfaces”という比較的メジャーなジャーナルに掲載されてしまい、撤回になってもいます。かなり異様な性器をもつネズミの図を掲載した論文も最近話題になりました。
しかし、多くの科学者が論文作成時にChatGPTが使っているのは間違いないようです。特にarXivでは、その傾向が強いようです。イタリアのSISSAのMingmeng Geng、インペリアル・カレッジ・ロンドンのRoberto Trottaが、2018年から2024年までにarXivで公開されたおよそ100万本の論文をもとに、ChatGPTの登場前後での、論文、特に要約の書き方の変化を分析しています。それによると、ChatGPTがリリースされた2022年の12月を境に、「capabilities」「language」などの単語が、論文の要約に現れる頻度が上昇し始めます。ほかにも「Covid-19」「pre-trained」などの単語の出現頻度が上昇していますが、これらはChatGPTをはじめとするLLMの論文が爆発的に増加したこととも関連しているようです。そこで著者らは「特別でない単語 non-specialized word」に注目してみました。そこで顕著に変化があったのが「顕著 significant」という単語の出現頻度増加と、「is」「are」の出現頻度減少です。
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2018年5月〜2024年1月の期間中、出現率の変化が最も大きかった12の単語 |
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arXiv論文の要約で出現率が増加した単語 |
ChatGPTの登場は、明らかに論文の文体を変えているようです。
arXiv, "Is ChatGPT Transforming Academics' Writing Style?", Mingmeng Geng, Roberto Trotta, April 12, 2024Deus Cantando
Peter Ablingerによる「Deus Cantando(神は歌う)」。これは高度に制御された自動演奏ピアノで、聞こえている音は、デジタルで生成された音でもなければ、ピアノ音にフィルターやエフェクトをかけているわけでもありません。ピアノの生音そのものです。ところが、ピアノがあたかも表示されているテキストを読んでいるかのように聞こえます。
これは、テキストを読む子供の声のスペクトラムと一致するように、ピアノの鍵を極めて正確に制御しているのだそうです。読んでいるテキストは、「欧州環境犯罪裁判所宣言」。
これはキャプションがあるせいで、テキストの了解性が高まっているようで、キャプションを見ずに音だけ聞いていると、そこまで声のように聞こえないかもしれません。
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Deus Cantando |
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