AI cinema is here
以前、TCL科技集団が提供するストリーミングサービス《TCLtv+》のオリジナルコンテンツが全編生成AIで制作されていることについて書きました。ストリーミングサービスで公開予定のシリーズ『ネクスト・ストップ・パリ(Next Stop Paris, 公開未定)』のプロモーション映像が、「AI生成動画の悪夢」として批判を浴びていたのです。そのTCLtv+が生成AIで制作された5編のショートフィルムを公開しました。『スラッグ(The Slug, 2024)』、『オーディション(The Audition, 2024)』、『サン・デイ(Sun Day, 2024)』、『プロジェクト・ネクサス(Project Nexus, 2024)』、『ベスト・デイ・オブ・マイ・ライフ(The Best Day of My Life, 2024)』の5編です。これらはすべてYouTubeで見ることが出来ます。公開に先立って、TCLが所有するハリウッドのチャイニーズ・シアターでプレミア公開イベントが行われたのですが、それをカバーしている映画関係者はほとんど見当たりません。
唯一、網羅的にレポートしているのが404Mediaで、Jason Koeblerが実際にプレミア公開イベントに出席して、その後もTCLにコメントを求めたりしています。他のメディア(Ars Technica, PetaPixel)は、404Mediaのレポートをもとに展開しているだけのようです。
AIで制作されたと言っても、実際にはキーとなる脚本、監督、音楽は人間がコントロールし、いくつかの作品では実際にプロの俳優が登場している場合もあります。生成AIが関与したのは、CG、アニメーション、キャラクター生成などのようです。使われたエンジンとしてNuke、Runway、ComfyUIが挙げられています。
もちろん、この5つの短編を見て、その欠陥、問題点を細かく、数限りなく挙げていくことはできます。404Mediaの記事では「コンティニュイティが崩れている」「セリフと口の動きの同期がとれていない」「その問題を回避するためにボイスオーバーや背中からのショットに頼りすぎている」などが挙げられています。そういった批判、例えばコンティニュイティの問題について、TCLのコンテンツ責任者のクリス・レジーナはこう答えています。
コンティニュイティの間違いはメジャーの実写映画でもAI映画と同じくらいある。むしろAI製作のほうが実写よりも修正しやすいはずだ。
Chris Regina
Chief Contents Officer at TCL North America
TVのメーカーであるTCLがなぜそこまでコンテンツにこだわるのか。彼らのストリーミング・サービスは「Free Ad-Supported Streaming Television (FAST)」、すなわち広告収入を基本としたサービスであり、特にターゲティング広告を主体にしたもののようです。TCLの狙いは、自社制作のコンテンツにターゲティング広告を組み合わせて、視聴者のベースを囲い込むことのようです。
TCLのコンテンツ・サービス&パートナーシップ部門の副部長であるCatherine Zhangは、TCLのストリーミング戦略とは「快適な連続鑑賞体験を提供すること」だと説明した。視聴者がコンテンツにひたすら受動的に晒され続けるようにするという戦略だ。「データによれば、私たちのユーザーはそんなに能動的ではないのです」と彼女は言う。「ユーザーの半分はチャンネルを変えることさえもしない」
Jason Koebler
私は『アイリッシュマン(The Irishman, 2019)』のDe-agingされたロバート・デニーロに堪えられなくて、途中で見るのを止めてしまいました。あとでよく考えてみると、De-agingのプロセスそのものよりも、若く見せかけているデニーロの演技があまりに大根で見ていられなかったからだと思います。もう十分映画出演してきた俳優を、それでも若く見せてさらに話題作に出演させる。つまり、『アイリッシュマン』のような映画が観客としてターゲットとしている層が、『タクシードライバー』のころからのファンの年寄りばかりだということです。一方で、TCLがターゲットとしているのは「見る映画や番組に全くこだわらない観客」です。データによれば、ユーザーの半分はチャンネルを変えることさえもしない。流れてくるものをただ受動的に見続けるだけ、というのです。かつてインフォマーシャルという《番組》がありましたが、あれも受動的にTVを見続ける視聴者をターゲットにしたものでした。私はシネフィルやオタクの言説に普段から漬かっているものですから、つい《こだわる》視点を優先しがちなのですが、供給する側からすれば《こだわらない》人たちのほうがもっと重要な位置を占めるのかもしれません。その市場、特に広告を介して生まれてくる利益は極めて大きく、そしてそこにAI生成映像が果たす役割は大きいと考えられている ─── そんなにおかしな話ではないのです。
404Media, "I Went to the Premiere of the First Commercially Streaming AI-Generated Movies", Jason Koebler, December 11, 2024
軍事支援とは
バイデン政権はイスラエルに対して巨額の軍事支援を続けています。しかし、その軍事支援とは何か、具体的な内容が語られることはあまり多くありません。ニューヨーク・タイムズでさえ、イスラエルへの軍事支援の文脈で「ロッキード・マーチン」や「RTX/レイセオン」などの企業を名指しすることはまれです。軍事産業に詳しいサイトや株式取引のサイトでない限り、こういった情報はあまり意味がないのかもしれません。日本のメディアはさらに静かです。日本経済新聞も同様の文脈で「アイアン・ドーム」に言及したことはあるのですが、企業名には言及していません。普通に報道メディアの記事を読んでいるだけでは、私たちはどんな「200億ドル」がどの企業に、どんな武器への支払いとして使われているのか、知ることはないと思います。
2022年のアメリカ防衛企業収益トップ20 出典:defensenews.com |
興味深い統計があります。2019年のアメリカの防衛支出を州ごとの配分でみた統計です。つまり、よりたくさんの防衛費が落ちている州ほど、軍需産業がより多く存在しているということです。1位はカリフォルニア州で660億ドル、2位がヴァージニア州で600億ドル、3位がテキサス州で550億ドルと続きます。
このトップ10の州をよく見ると、民主党が強い州、いわゆるブルーステートが7州にもなることがわかります。共和党が強いレッド・ステートはテキサス、フロリダ、アラバマの3州しかありません。しかもテキサス州のなかでも郡のレベルでみると、2024年の大統領選でハリス候補が票を集めた郡と防衛産業の従業員数の多い郡とが一致する傾向にあることがわかります。
テキサス州の防衛産業雇用人口と2024年大統領選の結果のマップ 防衛産業人口が多い郡は民主党候補ハリス氏に投票した人が多い傾向がある。出典:雇用人口マップ(businessintexas.com)、2024年大統領選結果(Wikipedia) |
もちろん、人口の多い都市部のほうが民主党支持者が多いという傾向があり、ただ単にテキサスのような州でもダラスやヒューストンのような都市部は民主党支持に傾いているという傾向を示しているだけなのかもしれません。フロリダ州とアラバマ州に関しては、民主党支持と防衛産業の雇用人口の相関は見られませんでした。
アリゾナ州の大統領選結果も興味深いです。人口の多いフェニックス(マリコパ郡)はトランプが勝ちましたが、ツーソンのあるピマ郡はハリス候補が勝っています。レイセオンはツーソンでパトリオットミサイルを生産していて、バイデン大統領が演説で言及したこともあります。
民主党支持のベースの一つとして防衛産業人口がある ─── あくまで相関があるように見えるだけかもしれず、そこは詳細な分析が必要になるのだと思います。各企業の政治献金は「どっちにも出す」という戦略で大したことはありません。ただ、民主党政権によるイスラエルへの過大な武器輸出の背景の説明として、「ユダヤ勢力の影響」みたいなぼんやりした話が繰り返されていて、実感がわかないんですよね。まあ、せめてどの企業がどんな武器を輸出することになるかくらいは報道されるべきなんじゃないでしょうか。
National Defense Magazine, "Small Number of States Dominate Defense Spending", Jon Harper, February 25, 2021
0 Comments
Post a Comment