2014年11月11日火曜日

立体的に見るということ(4)

これは「立体的に見ること」のシリーズの続きです。

動く2Dイメージで奥行きを表現する

前回までは静止している2Dイメージで奥行きを表現することについて書きましたが、今回は動く2Dイメージで(つまり、動くことではじめて発生する)奥行き感についてのはなしです。

これは運動視差(Motion Parallax)と呼ばれます。カメラが動くとき、近くにあるものは早く、遠くにあるものは遅く動くというものです。列車の窓から見ると、近くの家はあっという間に通り過ぎて行きますが、遠くの建物はゆっくりと動いていきますね。あの効果です。スーパースローモーションにすると、その効果が拡大されて見えます。

この運動視差を用いて空間の奥行きを表現した最初期の映画として挙げられるのが、イタリア映画「カリビア(1913)」です。それより以前にもカメラを動かすという例は見られますが、「パン」による構図の再構成が主体だったようです。「カリビア」は、映画のために特別につくられた巨大なセットの奥行きを表現するために、ゆっくりとしたトラッキングショットを導入したといわれています。



列車などの高速で動くものをとらえるときに「奥から手前へ」の構図で、近くに来たときのスピード感とサイズが強調するのは常套手段です。これとは逆にカメラが動きながら「手間から奥へ」と風景が動くときは、動く視点のスピードともに、周囲の風景の広大さを強調することができます。レニ・リーフェンシュタールの「意思の勝利」では、この「手前から奥へ」をロングテイクで撮影することで、ヒトラーの支持者の膨大さを強調しています。


SF映画など宇宙空間を舞台にした作品の場合、周囲に参照する風景がまったくないか、少ない場合には、この運動視差を利用することが重要になります。カメラの動き、被写体の動き、そしてカメラと被写体の距離を複雑に重ね合わせて、空間表現をするために、キュー(鍵)となるものを常に意識しながら構図を設計しないと観客を混乱させてしまうことになります。しかし、むしろその混乱を適度に利用して、エキサイティングな場面を作ることも可能です。


運動視差を用いた映像の中で、私が最も素晴らしいと思うのは、F・W・ムルナウの「都会の女(1930)」のこのシーンです。人間が走るスピードの移動カメラと、麦畑のテクスチャが作り出す運動視差、被写体の動きとカメラの動きの相対関係が、数十秒だけど、美しい。リンク先のYouTube映像では、麦畑のテクスチャがつぶれてしまっていて残念です。


ムルナウは本当にカメラを動かすのが上手い。

2014年11月9日日曜日

立体的に見るということ(3)

立体的に見るということ(2)の続きです

今までの話は、相対的な遠近関係を幾何学的に導き出した方法で表すことについてでしたが、光を用いて遠近感、奥行きを表現する方法もあります。

光と影を用いた立体感

物体の相対的な位置ではなく、物体そのものの立体感を表現する際に、陰影が大きな役割を果たします。陰影をつけることによって、2次元の円が球のように見え、凹凸が把握できるようになります。陰影を用いる立体表現は透視法よりも古く西洋絵画に導入されました。ローマ帝国時代の壁画には、陰影を使って表現された立体的な表現も見られ、また、時代を下ってジオット(1266 - 1377)の作品には、布のひだなどのやわらかい影を用いた、自然な立体表現が見られるようになります。

ボスコレアーレのフレスコ画 43 - 30 BC

ジオット ユダの接吻 c.1305

ジオット 聖フランシスの伝説 アレッツォでの悪魔追放 1297 - 1299
右下の壁の凸模様にも影による立体表現が見られる

影による立体造形に非常に積極的だった初期の映画監督は、レックス・イングラム(1893 - 1950)でしょう。彼は彫刻家だったこともあり(最終的には映画をやめて彫刻家になりました)、立体的な造形に非常に興味があったようです。「黙示録の四騎士(1921)」で、無名だったルドルフ・ヴァレンチノ(1895 - 1926)に深い陰影を与えて、それまでの顔の表情のとらえ方とは一線を隠した映像を試みました。

黙示録の四騎士(1921) レックス・イングラム監督

これとは別に、深い闇で遠近感を表現する場合があります。レンブラント(1606 - 1669)の絵画をみるとわかりますが、背景に暗く沈む闇は、何も描かれていないがゆえに、深い遠近感を生みます。

レンブラント・ファン・レイン キリストと姦淫の女 1644

薔薇の名前(1986) ジャン=ジャック・アノー監督

遠景を撮影すると光の散乱で青みがかって見えることは、映画や写真ではごく自然に起きます。しかし、絵画では意識的にそのような描き方をする必要があります。

トリュフォーの思春期(1976) フランソワ・トリュフォー監督
遠景は青くシフト
バニシング・ポイント(1971)リチャード・C・サラフィアン監督
ジョルジョ・ヴァッサーリ 十字架降架 c1430

暗闇と同じように、霧や煙を用いて距離感、深さを表現するのは、常套手段となりました。

ラスト・エンペラー(1987) ベルナンド・ベルトリッチ監督


2014年11月6日木曜日

立体的に見るということ (2)


(4)短縮法(Foreshortening)
これは(3)の「相対的なサイズ」の延長ですが、遠くのものが実際よりもより短く見えるということを利用したものです。この短縮法で描かれた最初期の絵画として、モンターニャの「死せるキリスト(c.1480)」が挙げられます。ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂、特に「大地と水の分離(1511)」では、まさしく神がこちらに向かって飛び出してくるような印象を与えます。ルネサンスからロココ/バロックの画家たちは、この短縮法を様々な場面で応用しました。

モンターニャ 死せるキリスト(c.1480)
ミケランジェロ 大地と水の分離(1511)

カラヴァッジオ エマオの晩餐(1601)

映画でこの短縮法が最も使用されるのが銃です。エドウィン・ポーターの「大列車強盗(1903)」から、ウォシャウスキー兄弟の「マトリックス(1999)」まで、ことあるごとに観客のほうに向けられ短縮法が強調された銃は、今にも弾丸がこちらに向かって飛び出してくる迫力を強調しています。

大列車強盗(1903) エドウィン・S・ポーター監督

お金持ちにつける薬(1940) アール・C・ケントン監督

 マトリックス(1999) ウォシャウスキー兄弟

(5)地平線からの位置
2次元で表現された空間では、地平線が参照の線となります。この地平線から離れれば離れるほど、近くにあるといえます。ルネサンス初期の絵画には、他の遠近感のキュー(鍵)とともに使われていることがあります。

ピエトロ・ペルジーノ ペトロへの鍵の授与(1481 - 1482)

西部劇、特に西部の荒野を舞台としたものでは、周囲に遠近を指示する対象となるものが少ないため、地平線を利用しながら、人物同士の距離や動きを表現するものが多く見られます。ジョン・フォード監督の「捜索者たち(1956)」では、人間の画面上での大きさ、土地の高低などを組み合わせながら、この遠近感を起伏のあるものにしています。

捜索者たち(1956) ジョン・フォード監督

「アラビアのロレンス(1962)」でも、やはり砂漠を舞台としているシーンでは、この遠近表現とクローズアップを交互に使いながらドラマの緊張を高めていきます。

アラビアのロレンス(1962) デヴィッド・リーン監督

(6)遮蔽(オクルージョン)
これは端的に言えば、近くにあるものは遠くのものをさえぎって見えなくするということです。ピエトロ・ペルジーニョの「降誕(1497 - 1500)」では、天使が雲に乗っているのですが、これがどこにいるのかと言うと、背景の山のほうの空ではなく、アーチから手前に浮かんでいるのです。これは天使の羽根が、アーチの一部を遮蔽していることから判るのですが、しかし、どれくらいこちらに近いのかは正直なところわかりませんね。

ピエトロ・ペルジーニョ 降誕(1497 - 1500)

フィリッポ・リッピ(1406 - 1469)の「受胎告知(1445)」では、真ん中の一本の柱で、受胎告知の場面が「向こう」にあることを明確に示しています。

フィリッポ・リッピ 受胎告知(1445)


このように描かれている世界とこちらを明確に分離する手段の一つとして、「フレーム(枠)」があります。すなわち、構図内にもうひとつの枠 -窓、ドア、アーチなどー をもうけて、その向こうの世界、枠にさえぎられて見えない世界をつくりだす手法です。この方法でより広い世界を枠の向こうに想像させ、遠近感を強調することがあります。カナレットのサン・マルコ広場の2枚の絵を比べて見ると、フレームを用いて視点を低く構えフレームを設けた絵のほうが、見ている者に自らの位置を意識させる効果があることがわかると思います。

カナレット サン・マルコ広場(1730)
カナレット サン・マルコ広場(c.1760)

フレームのこちら側が向こう側に比べて暗い場合が多いですね。

カナレット ウェストミンスター・ブリッジから見たロンドンの眺め(1746 - 47)

ジョン・フォードの「捜索者たち」のラストシーンは、まさしくこの「フレーム」と「遮蔽」を組み合わせて、イーサン・エドワーズ(ジョン・ウェイン)の世界の儚さを見事に表現しています。イーサンに抱きかかえられて戻ってきたデビーを迎えるジョージェンセン夫妻、そしてマーティンとローレン、彼らはみんなイーサンを「遮蔽」し、フレーム(玄関)のこちらにやってきます。イーサンは、フレームをこえてこちらに来ることはありません。このフレームは実に重要な役割を果たしています。

捜索者たち(1956) ジョン・フォード監督

2014年11月5日水曜日

立体的に見るということ (1)

[「疲労困憊の3D映画」シリーズの続きです]


静止した2Dイメージから奥行きを得る

3D映画でなくとも、立体感、奥行きを感じることはできます。いや、むしろ大部分の3D情報は視差を用いていないのです。

(1)透視図法
いわゆる「2次元での奥行き表現」と言ったときに、西洋絵画で発達した、この「遠近法」「透視図法」は基礎になります。一般的には1410年代から20年代に、フィリッポ・ブルネレスキ(1377 - 1446)ロレンツォ・ギベルティ(c.1381 - 1455)が、「再発見」したとされています。ブルネレスキは古代ローマの建築の観察から、ギベルティは、10世紀のアラビアの学者、イブン・アル・ハイサム(965 - 1040)の著書「光学の書」を研究したのがきっかけです。古代ギリシア、あるいはローマに「遠近法」が法則として認知されていたかは定かではありませんが、ポンペイの壁画には、消失点をもつ構図のものも含まれています。それらの法則を「復活させた」のがこの二人だと言われています。「ブルネレスキの実験」と呼ばれる、透視図法描画の実験があります。彼はフィレンツェのサン・ジョバンニ礼拝堂の風景を透視図法で描き、その絵の裏側から消失点を通して覗いた風景と、鏡に反射させた絵が重なるかを試しました。これからもわかるように、「透視図法」は片目でみても遠近感が発生するシステムです。



この透視図法による描画法はイタリア国内では10年から20年でほぼ確立されたようです。たとえば14世紀の終わりから15世紀のはじめにフィレンツェで作品をのこしたロレンツォ・ディ・ニッコーロの「聖フィナの伝説(1402)」では、遠近法の基本的なシステムも導入されておらず、現在の我々の眼から見るとかなり破綻した造形が描かれています。ところが、同じフィレンツェのマサッチオ(1401 - 1428)の「聖三位一体(1425)」になると、かなり正確な透視図法が導入され、いわゆる「トロンプ・ルイユ(trompe l'oeil)」の効果をみることができます。

ロレンツォ・ディ・ニッコーロ 聖フィナの伝説(1402)[部分]


マサッチオ 聖三位一体(1425)

マサッチオ 聖三位一体 透視図法解釈
 
この間はわずか23年であり、驚くべきスピードでこの技法が吸収されていったのがわかります。1450年代には、多少の不正確さはあれ、多くのイタリアの画家が透視図法を導入しています。なかには、ロレンツォ・モナコのように当初は遠近感など微塵もなかった作品だったのが、20年ほどで極端な透視図法を取り入れようとして、M. C. エッシャーのようなシュールなものになっている場合もあります。

ロレンツォ・モナコ 降誕(1390)

ロレンツォ・モナコ 三王礼拝(1422)[部分]
このような透視図法にみられる、消失点に向かって伸びる直線を利用した構図は、たとえば「第三の男(The Third Man, 1949)」の最後のシーンなどに見られます。

第三の男(1949) キャロル・リード監督

ミステリー・ストリート(1950) ジョン・スタージェス監督

(2)繰り返しパターン
透視図法とともに現れてきたのが、床や天井などのデザインやパターンを用いて、遠近を表現する方法です。同じ模様や形状が繰り返されるため、そのパターンが遠くに行くほど小さくなることで奥行きを表現します。アーチ、柱、天井や壁のパネルなどがよい例です。遠近表現の正確さを追及し始めた15世紀前半では、透視図法と併用されて多く登場します。わざわざ、繰り返しのパターンをひねり出して使用している例も見られます。また、時代は下って、ベネチアやロンドンの風景を多く描いたイタリア・バロック期の画家、カナレット(1697 - 1768)は繰り返すアーチと柱を多用しながら、空間を表現しました。

カナレット 修復中のウェストミンスター橋(1749)

上の「第三の男」でも並木のパターンが遠近感を強調しています。映画「アパートの鍵貸します(1960)」に登場するオフィスは、その広大さ、従業員の数の多さ、そしてジャック・レモン扮するバクスターが一介のしがない従業員でしかない事実を、数限りなく並ぶデスクと、天井の照明のパターンで表現しています。特にこの天井照明は、実際には大きすぎるし多すぎる。当時の実際のオフィスの写真と比較してみると一目瞭然です。これは、わざとこのようなデザインにして、奥行きを強調したのでしょう。

アパートの鍵貸します(1960) ビリー・ワイルダー監督


1950年代のアメリカのオフィス (via. WSJ)

(3)相対的なサイズ
これは我々があらかじめサイズを知っているものが、画面上でどのようなサイズ関係になっているかで遠近感を把握するということです。カナレットの「柱廊の遠近法(1765)」では、柱の大きさ、ひいては建築そのものの大きさが、随所に配置された人間のサイズで把握できます。

カナレット 柱廊の遠近法(1765)
風景の中に人物を配置して、その広大さを想像させるという手法は、ドイツのロマン派絵画によく見られるようです。広大な風景だけ描いてしまうと、それがどれだけ広大か判別しにくいのですが、そこに人間を配置することで、「人間」と「自然」の相対的なサイズ関係を表現するのです。有名なカスパー・ダーヴィッド・フリードリヒの「雲海を見下ろす散策者(1818)」のなかでは、こちらに背を向けた「散策者」が、この絵画に描かれている風景の広大さの鍵になります。

カスパー・ダーヴィッド・フリードリヒ 雲海を見下ろす散策者(1818)

アウグスト・マティウス・ハーゲンの「海岸(1835)」では、手前のボートと、その向こうの人間のサイズの関係だけで(他に距離をあらわす鍵になるものが描かれていない)奥行きを表現しています。

アウグスト・マティウス・ハーゲン 海岸(1835)

これはF. W. ムルナウの「サンライズ(Sunrise, 1927)」の1シーンですが、手前のランプの大きさが人間に比べて異様に大きく映っていることで、非常に近距離にあることがわかります。

サンライズ(1927) F. W. ムルナウ監督


市民ケーン(Citizen Kane, 1941)」の1シーンですが、やはり、手前のビンとスプーンの大きさから、奥からやってくるオーソン・ウェルズの距離が把握できます。

市民ケーン(1941) オーソン・ウェルズ監督

 
 
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