Netflix
Netflixの反マーケティング戦略は、映画業界の者にとってまったくわけのわからないものだった。
Will Tavlin
"Casual Viewing"
Will Tavlinの“Casual Viewing”は、Netflixのいかにも神話的ベンチャー企業らしい創始から、奇々怪々な超巨大メディア企業となった現在までを追った9,000語を超える大作エッセイです。ストリーミングサービスが奇妙な変態を繰り返して、ケーブルTVのビジネスモデルに近いものに落ち着こうとしている様子が描かれています。
一世紀にわたってハリウッドスタジオの経営は、非常に分かり易いものだった。より多くの人が映画を見れば、より儲かる。しかし、Netflixでは観客は個々の映画にお金を払っているわけではない。すべてのコンテンツを見るためにサブスクリプションを払っているので、おかしなことが起きているのだ。Netflixは、映画が長い歴史で培ってきたルールにしたがう必要がなくなっている。 Netflixの映画は儲かる必要がない。綺麗である必要もなければ、セクシーである必要も、知的である必要も、面白い必要も、よくできている必要も、とにかく観客を劇場の座席に呼び込むような何かを持っている必要はない。Netflixの観客は家で、カウチで、ベッドで、電車やバスで、トイレで見ている。見てなんかいないことだってある。
Will Tavlin
"Casual Viewing"
この「ストリーミングの視聴者の大半は実は見ていない」という見方は、前回のTCLtv+のAI動画の話にも出てきました。しかし、製作者たちのエゴを満足させるためだけに、LAのビルボードに新作映画の広告を打つというのは、かなりシニカルな世界です。
n+1, "Casual Viewing", Will Tavlin, Issue 49Watching…
ヨハン・グリモンプレ(Johan Grimonprez, 1962 - )の2作品を見ました。
The Shadow World (2016)
Directed by Johan Grimonprez
Based on "The Shadow World" written by Andrew Feinstein
邦題は『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇』。戦争・武器ビジネスと政治の関係を、多くの関係者へのインタビューとアーカイブ映像で輪郭を描き出していくドキュメンタリーです。おそらくこういうことなんじゃないか、と多くの人が思っていたに違いない事柄が、それ以上の荒唐無稽さをもって私たちの前に提示されます。インタビューの中で印象に残った言葉はたくさんあるのですが、一つだけ引用します。
つまり、このアメリカという国は戦争という公共事業(public function)を民営化したのです。
Lawrence Wilkerson
Colonel, U.S. Army (retired)
Former Chief of Staff to Secretary of State
アーカイブ映像の使い方が、アダム・カーチスに似ていて、「どこからとってきたのかわからない」映像が唐突に挿入されていきます。そのなかでもローラースケートをする男女のスローモーションの映像は、この映画のテーマとなんら関係がないだけに異様な存在感がありました。
Soundtrack to a Coup d'Etat (2024)
Directed by Johan Grimonprez
Written by: Johan Grimonprez
Produced by: Daan Milius, Rémi Grellety
これは1960年に起きたコンゴの独立をめぐる冷戦と人権運動の顛末を描くドキュメンタリーです。
本当に面白いのですが、一方で情報量が多すぎて1時間ほどでついていけなくなってしまいました。前述の“The Shadow World”もかなりの情報量でしたが、“Soundtrack to a Coup d'Etat”に至っては、字幕の情報量が多いうえに表示時間が短く、さらに音楽と映像が重なってくるので、頭の中で整理をつけるのに時間がかかるのですが、それが間に合わないうちにどんどん進んでいくんですね。サウンドトラックも、音楽と映像のサウンドトラックを重ねていることが多く、混乱に拍車をかけます。しかも2時間半。
アダム・カーチスのスタイルに似ていると言いましたが、カーチスの場合はナレーションはカーチスが主に担当し、ずっと一つの流れを作っていて、映像の編集も見る者が咀嚼できるタイミングを上手く測っていると思います。しかし、この作品はずっと断続的に字幕が映されつつも、全体の流れを自分で把握していかないといけない。第二次世界大戦後の国際政治にかなり精通した人でなければついていけないと思います。だから、このテーマに興味を持てる人が繰り返し見ることを前提にしているとしか思えません。
もう一度見てみようとは思っています。
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Soundtrack to a Coup d'Etat – Official Trailer |
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